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COE第3回
   国際シンポジウム


医学系研究科
21世紀COEプログラム



生体色素が彩るストレス応答のシグナル伝達機構
医学系研究科分子生物学分野 教授 柴原茂樹

はじめに:酸素 (・O=O・) はラジカルとしての性質を備えており、他の気体と比べて極めて高い反応性を持つ(究極の例:火葬)。この酸素と共存するため生物はヘムとメラニンを生成し、地球環境に適応した。メラニン生成は天空からの紫外線に対する防御でもある。生体色素(ヘムとメラニン)が関与する恒常性維持機構の解明とその分子制御法の開発を目的とする。

1. ヘム代謝の制御:ヘムオキシゲナ?ゼ (HO)はヘムを酸化的に分解してビリベルジン、一酸化炭素(CO)、鉄を生成する (図1)。ビリベルジンは、ビリベルジン還元酵素によって直ちにビリルビンに還元される。HOには2つのアイソザイムが存在する(HO-1とHO-2)。HO-2が構成的に発現されるのに対し、HO-1は基質であるヘム、重金属などによって誘導される。ビリルビンには抗酸化作用があり、HO-1の誘導は酸化ストレスに対する防御反応である。一方、低酸素などにより HO-1の発現は減少するので、 HO-1の発現低下も生体防御に重要と考えられる。また、低酸素環境では、造血とヘム合成が促進される。本研究では、低酸素などのストレス下におけるヘム代謝の絶妙な制御機構を解明することにより、活性酸素が関与する種々疾患や骨髄異形成症候群の治療法、及び鉄動態に重要なヘム分解の分子制御による悪性腫瘍や重症感染症(マラリアなど)の治療法を開発する。

2 色素細胞の分化制御 (Is beauty but skin deep?):婚姻色、保護色、季節による体色の変化など、動物界における体色の重要性は明らかであり、多くのホルモンが体色の形成に関与する。よって、生体色素の形成、色素細胞の機能維持は生殖、摂食、生体防御など”個体”あるいは”種”の維持に必須な現象と深く関連する。神経堤由来のメラノサイトと脳由来の網膜色素上皮細胞はメラニン産生能を有する。両色素細胞の分化制御因子である小眼球症関連転写因子MITFは、種々細胞外シグナルにより制御される(図2)。転写因子MITFの変異マウスblack-eyed white (Mitf-bw)の行動解析により、メラノサイトには未知の生理機能があることを発見した。 なお、黒目・白毛のbwマウス(写真)は内耳メラノサイトを欠損するため難聴である。本研究は、シミ、白斑、白髪や脱毛(毛包の機能低下)、コミュニケーションの障害(視聴覚機能低下)などの身近な問題や悪性黒色腫の治療法の開発に貢献する。特に、皮膚の再生、毛包と網膜の細胞治療への応用が期待される。

図1ヘム分解反応:脾臓マクロファージでは毎日全赤血球の約1%に相当する老廃赤血球が処理され、ヘモグロビン由来の大量のヘムが分解される。その他の細胞では種々の内在性ヘムタンパクのヘムが分解される。ヘムから回収された鉄の大部分は骨髄の赤芽球系細胞に供給され、ヘム合成(造血)に再利用される。 COは一酸化窒素 (NO) のようにシグナル伝達ガスとして機能する場合がある。
図2 MITF遺伝子とアイソフォームの構造(黒部分はタンパクをコードするエクソン領域、白部分は5’と3’の非翻訳領域)。エクソン2?9はすべてのアイソフォームに共通である。N末の異なる7種のアイソフォームが知られているが、メラノサイトト特異的なMITF-Mなど代表的な3種のみを示す。bwマウスの外来DNA挿入部に相当する部分を赤で示す。bwマウスではエクソン1Mからの転写が抑制されるため、MITF-Mを欠失する。