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COE第3回
   国際シンポジウム


医学系研究科
21世紀COEプログラム



口腔粘膜の生体防御機構
歯学研究科口腔分子制御学分野 教授 菅原俊二

 口腔粘膜はさまざまな刺激や口腔細菌に対する単なるバリアとして機能するばかりでなく、種々の受容体を介してサイトカインや増殖因子を産生することにより口腔粘膜の恒常性を維持し、また、口腔粘膜への好中球や免疫細胞の浸潤をコントロールすることにより、口腔粘膜特異的な生体防御機構を構築している。そして、この防御機構の破綻(異常)により天疱瘡、口腔扁平苔癬や口腔がんなどの口腔粘膜疾患「口腔粘膜シグナル伝達病」が発症すると考えられる。さらに、口腔粘膜を被覆する唾液も生体防御において非常に重要なファクターである。当分野では口腔粘膜の生体防御機構ならびに「口腔粘膜シグナル伝達病」発症の分子・遺伝子レベルでの解明を目指し、以下のテーマを掲げ研究を推進している。1)生体防御において重要な好中球が産生するセリンプロテアーゼはGタンパク共役受容体ファミリーの一つ、protease-activated receptor-2(PAR-2)の新たなリガンドでありSLPIがその活性を制御していることを明らかにした(図1)。口腔粘膜の「シグナル伝達病」とPARファミリーとの関連を解析し、その予防・治療法の開発を目指している。2)口腔粘膜はIL-15やIL-18など免疫応答に重要なサイトカインを発現していることを明らかにしたが、その生理的作用については不明な点が多い。我々は内因性IL-15がIL-2/15R?と?c鎖の発現をコントロールしていることを明らかにした(図2)。これらサイトカインの生理的役割と、ヒトパピローマウイルスなどによる発がんのメカニズムについての解明を目指している。3)口腔粘膜の生体防御機構を理解する上で、唾液の免疫調節作用を解明することは重要である。我々は、自然免疫において重要なCD14分子が唾液腺、特に耳下腺を主体とする漿液腺で恒常的に産生され、唾液中に流出していることを見出した(図3)。さらに唾液腺はこれまで報告のなかった免疫調節因子を産生していることも見出している。唾液中のこれら因子の生理的意義と「口腔粘膜シグナル伝達病」との関連を明らかにし、リスク診断・予防への応用を目指している。 4)炎症・免疫反応に関わる新しい反応として、@サイトカインと連動した非マスト細胞によるヒスタミンの産生とその生理的および病理的意義(アレルギー,筋肉疲労,胃潰瘍,歯周病,糖尿病,癌,骨粗しょう症,薬物の副作用などとの関連性)、 A炎症・免疫応答における血小板のユニークな挙動とその意義の解明、B bisphosphonates(骨吸収抑制薬)の炎症・免疫応答におよぼす作用の解明とその臨床応用を目指している。


図1 PAR-2を介した好中球と口腔粘膜細胞とのクロストーク。

図2 内因性IL-15によるIL-2/15Rbとgc発現制御。口腔粘膜はIL-15を発現するが放出されず膜結合型として存在し、抗IL-15中和抗体によりIL-2/15Rbとgc発現が抑制される。内因性IL-15のautocrine loopがIL-2/15Rbとgc発現に関わることが推察される。

図3 ヒト唾液腺のCD14発現。CD14は唾液腺の漿液細胞(s)で恒常的に産生され、唾液中に流出する。m:粘液細胞。