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COE第3回
   国際シンポジウム


医学系研究科
21世紀COEプログラム



婦人科癌の化学療法耐性獲得機構の解明と治療への応用
医学系研究科婦人化学分野 教授 八重樫伸生

 婦人科癌の概ね70%以上が化学療法に奏功するとされ、固形癌の中では最も化学療法剤に対する感受性が高い腫瘍の一つである。しかし一部に化学療法剤抵抗性のものが存在することや、再発腫瘍に対して繰り返し抗癌剤を投与しているうちに細胞が薬剤耐性を獲得することが知られる。このような薬剤耐性が最終的に不幸な転機に結びつくことから、その耐性を克服することが婦人科癌征圧の重要な課題となっている。
 当婦人科学分野では、これまでに婦人科癌の薬剤耐性機構を分子レベルで解析すると共に、トランスレーショナルリサーチとして、それらの耐性の情報を基にした治療法の開発に努めてきた。この流れの下に、現在、以下のテーマを掲げて研究を展開している。

1)ATP7B遺伝子はウイルソン病の原因遺伝子であり、その遺伝子産物は細胞内から銅を排出するトランスポーターとして機能するだけでなく、婦人科癌化学療法の最も重要な薬剤であるプラチナ製剤の排出にも関与する。われわれの研究から子宮体癌でのATP7Bの発現とプラチナ製剤への反応性は密接に相関することが明らかになってきた(下記の表)。

2)OCA1は抗癌剤の一つであるアドリアマイシンを細胞内に取り込むトランスポーターである。 婦人科癌細胞でのOCA1の発現と婦人科癌でのアドリアマイシンに対する反応とは密接に関連することを明らかにし、抗癌剤への感受性が細胞への抗癌剤取り込みのレベルで制御されている可能性を示した。

3)ミトコンドリアの遺伝子変異が細胞の抗癌剤感受性と密接に関連することが最近報告されている。そこで我々は30種類以上の婦人科癌細胞株および手術摘出標本を用いて遺伝子解析を進めている。

4)手術摘出標本を用いて抗癌剤の感受性試験や遺伝子解析を行っているのと同時に、その結果を実際に患者に投与した薬剤の奏功率と比較することにより、基礎研究で得られた成果を直接臨床の現場に生かすシステムを構築している。このような研究が婦人科癌の薬剤耐性で苦しむ患者の利益になることを期待している。