活動内容

第10回東北大学脳科学グローバルCOE若手フォーラム

 9月26日(金)に、第10回東北大学脳科学グローバルCOE若手フォーラムが東北大学星陵キャンパス(医学部)にて開催されました。

今吉先生

 今吉先生には、「マウス成体脳における継続的なニューロン新生の役割」と題して、本年の10月にNature neuroscienceに発表された論文を中心として、ご講演いただきました。
 従来、ニューロン新生は発生期においてしか行われないと考えられてきましたが、近年、ヒトを含めた哺乳類の成体の脳においても神経幹細胞が存在し、側脳室脳室下帯や海馬の歯状回といった特定の領域ではニューロン新生が一生涯続いているということが明らかになってきました。前者は嗅球のニューロンに、後者は歯状回のニューロンに分化することがしられています。しかしながら、このような新生ニューロンがどの程度まで既存のニューロンと置き換わるのか、あるいはニューロン新生が脳の機能にどう寄与するのかといった点はまだよく明らかにされていませんでした。


 そこで今吉先生は、薬剤投与により、成体脳に存在する神経幹細胞特異的に遺伝子組換えを誘導できるトランスジェニック(Tg)マウスを作製され、実験的アプローチからの解明に取り組まれました。このTgマウスを用いて、今吉先生はニューロン新生が、嗅球においては顆粒細胞の数、および神経回路の維持に必須であることを、歯状回においては、既存の神経回路の増幅、および海馬依存的な記憶の形成に寄与していることを明らかにされました。
 同世代でもある今吉先生の、Tgマウスの利点を活かして理論的に実験を構築していく能力や、真摯に研究に取り組む姿勢から学ばせていただくことが沢山あり、励みにもなりました。


武田先生

 武田先生には、「神経変性疾患の生化学〜アルツハイマー病のアミロイドを中心に〜」と題して、講演を行っていただきました。
 アルツハイマー病(AD)は、老年期における代表的な認知症の一つであり、記憶障害に加えて、学習困難や判断能力の低下が主な症状としてあげられます。さらに慢性進行性の神経変性疾患であり、人のQOL低下に重大な影響を及ぼす疾患であると考えられます。ADの診断は、死後脳の病理解剖で確定され、多量の老人斑形成と神経原線維の変化、萎縮を特徴とします。ADの発症機序として、老人斑の出現が他の病変に先行すること、またAD特異的であることから、老人斑の形成が引き金になるのではないかと考えられてきました。現在では、老人斑のもととなるアミロイド、アミロイドの主成分であるアミロイドβの蓄積がその他の病変を誘発するという、アミロイドカスケード仮説が提唱されています。


 武田先生は、AD研究の歴史を、アミロイドカスケード仮説を中心として生化学的見地から御講演下さり、普段聞く機会の少ないAD研究の背景を知ることができました。また、ADを正確に再現するモデル動物が得られないことから、ADにおける神経細胞死の機序については、まだほとんど分かっていないなど、研究の難しさを知るとともに、これからのAD研究の発展性が感じられました。


 フォーラム後のアンケートでは、御講演下さったお二方の先生に対して、多くの方が興味深い内容だったと回答しており、関心の高さを伺わせました。

(文責:形態形成解析分野 山西恵美子)

Copyright © Tohoku Univ. All Rights Reserved.