活動内容

第12回東北大学脳科学グローバルCOE若手フォーラム

1月30日(金)に、第12回東北大学脳科学グローバルCOE若手フォーラムが東北大学星陵キャンパス(医学部)にて開催されました。

 甲斐信行先生には、『薬物誘導行動における2種類の側坐核shell投射ニューロンの役割』と題して講演を行っていただきました。側坐核は様々な脳領域から行動の柔軟性、文脈的な情報、情動に関わる入力を受けていて、行動の調節に非常に重要な役割を担っていることがわかっています。中でも、甲斐先生は神経伝達物質であるドーパミンにより調節されるメカニズムの解明を神経回路のレベルで明らかにしようと試みておられます。また、側坐核には機能の異なる2つのドーパミン受容体サブタイプ(D1またはD2)を発現する2種類の投射ニューロンがありますが、それぞれの細胞が行動の制御にどのような役割を果たしているかは明らかではありませんでした。

 本講演では、まず側坐核に関する幅広い専門知識と所属するグループで開発した、あるねらった細胞や神経回路、時期特異的に除去する方法であるイムノトキシン細胞標的法を紹介していただきました。これまでに側坐核の行動における機能を調べる方法としては破壊実験などがありましたが、決まった細胞や回路のみを壊すことができず、詳細な解析には不向きな実験系でした。そこで、甲斐先生はこのイムノトキシン細胞標的法を用い、側坐核のD1受容体陽性細胞もしくはD2受容体陽性細胞を各々選択的に除去することにより、依存性薬物であるメタンフェタミンによって誘発される行動に関わる機能を紹介されました。今回ご講演していただいた研究成果にとどまらず、イムノトキシン細胞標的法を含め、甲斐先生のunknownな現象、機能を明らかにしていくための研究計画の組み立てや実際に実行していく能力、姿勢に触れさせていただくことによって、今後私が研究生活を送る上で非常に励みになり、かつ多くを学ばせていただくことができました。

(文責 医学系研究科 精神神経生物学分野 有銘 預世布)

甲斐信行先生
村田哲先生








 

 村田哲先生には、『脳の中の身体』と題して講演を行っていただきました。私たち人類を含む高等動物は、他者と関わり合いながら社会生活を営んでいます。その『他者との関わり』において、『身体』というものが、大きな役割を果たしています。近年、リゾラッティというイタリアの神経科学者が、ミラーニューロンというものを発見し、発表しました。ミラーニューロンとは、他人が特定の動作を行うのを見た時、および自分がその特定の動作を行った時の、その両方において、強く反応するニューロンです。このニューロン活動は、他者が動作を実行している時の状態が自分の脳内でシミュレーションされていることを表している、と解釈されています。

 今回の講演はこのミラーニューロンを話の糸口に、脳内における自己の身体や運動の認識について、他者の身体や運動の認識について、自己と他者の区別について、それらに付随するさまざまな現象について、など広範な知識を村田先生のなさった実験などを引用してご紹介いただきました。目の前で他者が第三者に触られているのを見ると自分も同じ場所を触られているように感じるという『触覚と視覚の共感覚』や、先ほど簡単に触れたミラーニューロンのような『視覚と運動の両方に関わる神経活動』といった、自己と他者を区別しない認知過程。それらに対して、自己と他者の運動を区別するためには、実際の運動実行指令が脳内で発生しているかどうかを参照しているのではないか。といった専門的な知識を、体外離脱体験や錯覚、事故で失った手足に痛みを感じる幻肢痛、自分で自分をくすぐってもくすぐったくない理由、などの非常に興味深く、魅力的な切り口から分かりやすく解説していただき、専門内外を問わず、参加者のみなさんの知的好奇心を満たし、また、楽しんでいただける内容であったのではないでしょうか。

(文責 生命科学研究科 脳情報処理分野 山田 宗和)

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