お知らせ
抗体創薬学分野の加藤 幸成教授らの論文がInternational Journal of Molecular Sciencesに掲載されました
抗体創薬学分野の加藤 幸成教授の研究グループは、がん細胞を特異的に攻撃する抗体医薬(注1)(CasMab(注2))の開発を行っており、近年、HER2(注3)を標的とするHER2-CasMab の開発に成功しました。本研究では、HER2-CasMab の抗腫瘍効果のメカニズムの解明を行い、HER2-CasMab が上市抗体医薬品のトラスツズマブ(注4)よりも有意に高いCDC(注5)活性を持つことがわかりました。また、HER2 高発現腫瘍に対し、トラスツズマブよりも高い抗腫瘍効果を示したことから、乳がんや胃がんなどのHER2 陽性がんに対する副作用のない治療法の開発が期待されます。
本研究結果は、令和6年8月1日、欧州の科学誌International Journal ofMolecular Sciences に掲載されました。概要はYouTubeの抗体創薬学分野チャンネルでもご覧いただけます。
【用語説明】
注1. 抗体医薬:抗体とは、リンパ球のうち、B細胞が産生するタンパク質で、特定の分子(抗原)を認識して結合する。血液中や体液中に存在し、細菌やウイルスなどの微生物に結合すると、白血球による貪食が起こる。がん細胞に結合しがん細胞を殺す働きもあり、多くの抗体医薬品が臨床で使用されている。
注2. CasMab(キャスマブ):Cancer-specific monoclonal antibody(がん特異的抗体)の略で、2014 年に東北大学の本研究室が世界で初めて発表した(商標:第5690178号)。がん細胞と正常細胞に発現する膜タンパク質のアミノ酸配列が100%同一であっても、がん細胞に特徴的な構造の違いを認識する。
注3. ヒト上皮細胞増殖因子受容体2(HER2;ハーツー):細胞の増殖に関与するとされるタンパク質のひとつ。正常な細胞にも存在し、細胞の増殖調節能を担っていると考えられるが、過剰に発現したり、活性化したりすることで細胞の増殖制御ができなくなりがん化する。HER2陽性率が高い腫瘍としては、乳がんや胃がんなどがある。
注4. トラスツズマブ(ハーセプチン®):HER2 に対する抗体医薬のひとつ。HER2 陽性の乳がんは、以前は難治性の乳がんとされていたが、トラスツズマブが導入され、治療成績は大幅に改善された。
注5. 補体依存性細胞傷害(Complement Dependent Cytotoxicity:CDC)活性:抗体が標的細胞(がん細胞やウィルスなど)の抗原に結合すると、複数の補体が次々と反応して活性化する。細胞の表面で一連の反応が起こり、標的細胞を溶解する。