ご挨拶
東北大学医学部は1915年の東北帝国大学医科大学の設立から109周年を迎えました。この100年を越える歴史の中で、研究を第一義とする「研究第一」、多様性重視の「門戸開放」、新たな社会価値創出を目指す「実学尊重」の3つの建学理念のもとに、優れた医学研究者を数多く輩出し、古くにはセンダイウイルスの発見、脳波計の発明、世界最初の胃がん検診などいくつもの大きな研究成果を発信してきました。特に、レントゲンを積んだバスを農漁村に持ち込んで健康人を対象にがん検診を開始したことは当時の社会からすると画期的であり「実学尊重」の実例と言えましょう。
2019年末に出現した未知のウイルス感染症により人類の危機を迎えたことで、がんなどの慢性疾患に対する緻密な個別化医療の方向に進んでいた医学・医療が、パンデミック対応という人類全体の危機管理をも担うことになり、さらにはレジリエントな社会構築への貢献を求められるようになりました。東北大学では、COVID-19の軽症者にも最善の医療が提供できるようにホテル療養施設を大学病院の臨時分院とすることで宿泊療養しながら検査・治療を可能とし、重症度に合わせて個別に治療できる仕組みを作りました。また、仙台駅直結の会場に東北大学ワクチン接種センターを設置し80万件のワクチン接種を実施し宮城県民の危機管理を担いましたが、大学病院としてのワクチン接種件数は日本一と思われます。このような独創的な医療体制の構築は東日本大震災時に被災地医療の陣頭指揮を執った教授がその経験を活かして創出したものです。一方、20年前のSARS出現時にWHOの代表として北京入りして終息させたある教授は、今回のパンデミックでは内閣官房のCOVID-19対策分科会のメンバーとしてコロナ対応の最前線で活躍しています。グローバル化し複雑化した現代社会では、今後も人類が経験したことがない未知の課題が次々と出現するのは間違いありません。大震災やパンデミックのような危機的状況や従来社会には存在しなかった未知の課題に取り組むことは東北大学の使命であると考えます。これまでの経験から得られた多くの知見を継続的に発展させることで、近未来の医学・医療においてこれまで以上に中心的な役割を果たしていきたいと思います。
本医学部には1970年に制定された北斗七星をモチーフとした校章があり、この校章には先に述べた3つの建学理念と相通ずる「北極星のような不動の真理を求め広く世人の道標とならん」とする医学部創立時からの先人の思いが込められています。教育・研究によって校章に込められた理念を実現できる人財すなわち新たな真理を発見できる医学研究者や人類に貢献できる高度医療職業人を養成しています。医学科と保健学科があり、医療従事者の養成だけなく学部時代から医学研究に従事させることで医学研究者の養成を行っています。さらに大学院には医科学専攻、公衆衛生学専攻、障害科学専攻、保健学専攻があり、「門戸開放」を実現すべく世界中から留学生を受け入れ、世界最先端の研究を大学院生が自ら推進することで、次世代の医学・医療を担う研究者を養成しています。彼らが人類の未知の課題の解決に向かって世界の最前線で活躍することを心から願っています。
石井 直人 ( いしい なおと )
医学系研究科長・医学部長
東北大学大学院医学系研究科 免疫学分野 教授
1989年 東北大学医学部卒業
1989年 東北大学附属抗酸菌病研究所小児科学教室入局
1995年 東北大学医学部細菌学教室助手
2003年 東北大学大学院医学系研究科免疫学分野准教授
2009年 同 教授
2023年 東北大学大学院医学系研究科長、医学部長に就任、現在に至る