東北大学大学院医学系研究科 大学院教育改革支援プログラム

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学際領域ゼミナール 2009年度

本プログラムは、大学院生の質の高い研究の企画力・展開力の涵養と実際の研究遂行スキル向上を目的に実施する公開ゼミナールである。大学院生(ルネッサンスTA)が、異分野の第一線の研究者によるゼミの企画・運営を主体的に行うことにより、バランスの取れた企画・運営能力を身につける一方、聴講する大学院生は、講義・討論を通じて学際的な研究マインドを身につけ、創造性に溢れる研究基盤構築能力を修得することを目的にしている。本ゼミは2、3年次学生の対象科目であり、本ゼミへの参加が申請の条件となるブースター申請(研究企画申請実習)と合わせて履修単位が認定される。

平成21年度 第1回 学際領域ゼミナール 報告

日時 : 平成21年7月24日(金) 17:30〜19:30
講師 :
東北大学大学院理学系研究科
小谷 元子 教授
講演タイトル : 「宇宙の地図を描く」
担当 TA : 佐山勇輔、中村 敦、宮内誠カルロス、藤直子

概要

今回の講師は、離散幾何解析学がご専門の理学研究科数学専攻教授・小谷元子先生だった。

まず「測れないものを測る」というテーマで、人間がいかにして地図を作成していったかを歴史を交えながらお話をされた。球形である地球の完璧な平面の地図の作成は不可能であり、それをどうやって証明していったのかという話を平面幾何学と球面幾何の違いに基づいて説明され、さらには負に曲がった双曲幾何についての話に及んだ。

最後にこれら幾何学を使えば、直接踏査できない宇宙でも計測できるということを説明され、現在関わっておられる21世紀COEの研究内容に触れられ、ゼミは閉じられた。

普段接することのないトピックであり、小谷先生の講演内容についていくのに頭がフル回転しても足りないぐらいであったが、その分非常に新鮮で有意義なものであった。更に先人たちの知恵の結晶である数学に畏敬の念を感じることのできたゼミであった。

文責:藤 直子

平成21年度 第1回 学際領域ゼミナール 報告
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平成21年度 第2回 学際領域ゼミナール 報告

日時 : 平成21年8月11日(火) 17:00〜19:00
講師 :
東北大学大学院医学系研究科
宮田 敏男 教授
講演タイトル : 「学際領域に基づいて大学から創薬は可能か」
担当 TA : 古瀬祐気、渡辺祐子、白井剛志、佐山勇輔

概要

今回の講師は、様々な疾患に対する創薬の研究をされています医学系研究科、教授宮田先生だった。

まず講師でおられる、宮田先生が今の研究に至るまでの経歴および動機などを話してくださった。中でも腎臓に対し特異的な薬剤が今でも無いこと、薬剤を服用する患者の人数によって製薬会社の創薬に対する姿勢を改めて認識させられた。また、現在進行している研究プロジェクトの話しをされつつ、現在の日本での治験に関する問題点や関東以北の地理的問題点など、更には宮田先生ご本人が各製薬会社に訪問され、その時の話しにまで及んだ。

また、ご講演中に各創薬の化合物の捜索に辺り、医学だけでなく化学など他の分野において特化されている先生とも共同に研究されている話しをしていただき、今回の講演テーマである「学際領域」に関しても話しを聞くことができた。

今回の講演を聴講し、改めて創薬の難しさや医学だけでなく様々な学問が融合する学際領域での研究の重要性を認識できた。更に、治験のフェーズ進行において大学でどこまで出来るかなど、今までどこの大学も行っていない研究をされていることに、私を含め聴講者に大きな刺激を受けたゼミであったと感じた。

文責:佐山 勇輔

平成21年度 第2回 学際領域ゼミナール 報告
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平成21年度 第3回 学際領域ゼミナール 報告

日時 : 平成21年9月9日(水) 17:00〜19:00
講師 :
東北大学大学院農学研究科・農学部
木島 明博 教授
講演タイトル : 海産無脊椎動物の保全と生産
(マナマコの種構成、エゾアワビの近交弱勢)
担当 TA : 中村敦、金子聡一郎、黄志芳、楽暁妮

概要

海、山、川、大自然を舞台にして研究を為さって来た教授木島先生はインディアナ・ジョンズを思わせる経験をたくさん語ってくださった。

最初木島先生は、農業は食の確保をはじめ国家の安全保障に極めて重要だと真剣な話をしてくださった。日本の中でもこの食の確保に非常に重要な地域は東北地方であると改めて認識させられた。そして、農業の発展・進歩には研究が欠かせなく、また研究で得られた知識の応用は国家による支援が重要だと話した。日本は特に農水産業の研究において他の国にない強みを持つが、中国は日本から学んだ知識を活用する活力を持っているということで、農水産業において画期的な協力関係になりつつあると話してくださった。

最後に、木島先生は中国と北朝鮮の国境近くにある延吉という町に訪ねた経験を語ってくださった。延吉の周りの大自然の生態調査だけなく、町の人物と風景、また中国と北朝鮮との境界になった豆満江で北朝鮮軍にライフルを向けられながら、川の生物のサンプル採取を行った経験について話された。北朝鮮側の山の斜面が開拓され畑になっていた写真も見せてくださって、間違った農業政策の例として取り上げてくださった。山の斜面に適した植物と適さない植物を区別せずに農業を行った北朝鮮は国民に飢餓の危機に曝したことを認識させてくださった。

講演の後、木島先生、木島先生を招待してくださった産婦人科教授の八重樫先生および学生達は懇親会に集まり、楽しい会話で交流を深めた。

文責:黄志芳

平成21年度 第3回 学際領域ゼミナール 報告
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平成21年度 第4回 学際領域ゼミナール

日時 :平成21年10月9日(金)17:00〜19:00
場所 : 臨床大講堂

講演タイトル :
「創薬標的分子探索におけるプロテオミクス:リン酸化プロテオミクスを中心に 」
講師 :
慶応義塾大学先端生命科学研究所  准教授
石濱 泰 先生

概要

今回ご講演いただいた石濱泰先生は、仙台から然程遠くない山形県鶴岡市の慶應義塾大学先端生命科学研究所でプロテオミクスの世界最先端の研究を手掛けておられる。ご講演では、まず、膜タンパク質の信頼度の高い解析法の構築についてご紹介いただいた。従来から膜貫通部分の脂溶性の影響で、溶液中での扱いが困難とされていた膜タンパク質の可溶化に検討を加え、効率的な酵素消化法を確立され、その後のnanoLC/MS/MS分析では可溶性タンパク質となんら変わらない方法で解析できる方法を考案された。本法を用いることにより、これまで解析されていなかった多くの膜タンパク質の解析が一気に加速されると思われた。

次に、リン酸化タンパク質の効率的解析法についてお話しいただいた。石濱先生が独自に開発したHAMMOC(Hydroxy-Acid Modified Metal Oxide Chromatography)という技術は、リン酸化プロテオミクスをハイスループット化し、現在様々な分野への応用も繰り広げられつつある。驚いたことに、石濱先生のチームで解析したリン酸化プロテオミクスのデータ量は全世界のトップであり、そのデータ量は、なんと他の全世界のデータ量の二倍以上に達しているという。お話を拝聴しながら、東北大学の医学系研究科においても、大いにこの技術が活用できるのではないかと感じた。

石濱先生の話から刺激を受けた学生達は、講演後にたくさんの質問を石濱先生にぶつけてみた。技術、理論および残された課題について、様々な質問に石濱先生は丁寧に答えてくださった。非常にワクワクした講演だった。

文責:黄志芳

平成21年度 第4回 学際領域ゼミナール
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平成21年度 第5回 学際領域ゼミナール

日時 :平成21年10月23日(金)17:30〜19:00
場所 : 臨床大講堂

講演タイトル :
「バイオロジカルネットワークダイナミクス〜遺伝子を制御する数学〜 」
講師 :
東北大学国際高等研究教育機構 教授
木村 芳孝 先生

概要

第5回学際領域ゼミは、東北大学国際高等研究教育機構の木村芳孝教授に講師をお願いした。

本日のテーマは、「遺伝子を制御する数学」。これは難しそうだ、と思いきや「カリマンタンの泥炭火災」。うん?無論、関係のない話ではなかった。個々の事象は正しくとも、システムとしての理解・把握が無いと、誤った方向へ物事が進んでしまうことの実例であった。

これまでの生命科学研究は、タンパク⇒核酸⇒遺伝子という個々の事象から出発し、上流へさかのぼる形で研究が進んできたが、遺伝子という大量のinformation(バイオインフォマティクス)を手にした今、遺伝子発でシステム、ネットワーク研究をすすめる「機能ゲノミクス」が重要となってきた。

ただし生命現象は複雑である。しかし数学を用いることで、複雑な現象が簡易なシステムより成り立っていることが証明でき、理解できる。生体内のネットワークは3つしかなく、うち最も重要な転写ネットワーク(遺伝子発現制御転写ネットワーク)の中で有意な確率で生じるネットワークモチーフについては、数式化が可能であるという。生物化学教室 武藤先生との「B cell maturationの転写ネットワーク」に関する研究において、数式の演算値と実験データが近似した結果が実際に提示された。

今回のゼミは遺伝子の膨大な情報を前にした時、数学は方法論として、ツールとして非常に有用であることを学んだ一方で、数学そのものが、ひとつの概念であることを改めて感じさせられた内容であった。

質疑応答での「今後のテーマは?」という質問に対して、木村先生は「胎児のischemic memoryを書き換えることで、新生児低酸素脳症を予防したい、治したい」という現役産婦人科医の熱い思い、眼差しも見せてくださった。

木村先生、楽しく、そしてacademicな講義をしていただき、本当にありがとうございました。

文責:工藤博典

平成21年度 第5回 学際領域ゼミナール
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平成21年度 第6回 学際領域ゼミナール

日時 :平成21年12月3日(木) 17:30-19:30
場所 :医学部臨床小講堂

講演タイトル :「新しい医学用測定法」
講師 :西澤 潤一 先生

概要

本年度最後の学際領域である今回は、自主ゼミとして学生から講師の希望を募った。結果、多くの熱望が実り、西澤先生(本学元総長)に講演して頂いた。

先生は電磁波の研究者として、常に世界の第一線を歩まれてきた。教科書に載っているような歴史的な技術の革命・進歩を、当事者の1人であった先生の口から拝聴できたことは、大変刺激的であった。先生の軽妙な語り口を聞いていると、その歴史を目の当たりにしているような臨場感を覚え、人類の知恵や進歩が体の中に沁み込んでくるような、あっというまの2時間であった。

通信を究めるため、つまりは「いつでも・どこでも・誰とでも」を達成するために、あらゆる周波数の電磁波を出力できるように様々な試行錯誤を繰り返された先生の体験談からは、分野は違えど研究者にとって大切なマインドを教わることができた。さらに、THz(テラヘルツ)の電磁波を用いた技術が、医学を含め多様な分野に新たな境地を開拓しつつあることを学んだ。物質の吸収域を測定することで、塩基を識別することができるようになったり、分子レベルの欠陥を同定したりすることができるようになっているという。このような技術を応用することで、精度の高い疾患スクリーニングが可能になるであろう。特にスライドの最後には、正常組織と癌組織を実際に識別された成果を見せて頂き、医学に差し込んだ新たな光を確信することができた。

異分野の先生でありながら、研究者としての心構えやモチベーションのみならず、医学を研究している私たちにとって実践的な知識を披露頂き、聴衆の誰もが感嘆しながら聴講できた大変有意義な時間だった。

文責:古瀬祐気

平成21年度 第6回 学際領域ゼミナール
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