interview02

  • 保健学科/看護学専攻
    看護技術開発学分野
  • 菅野 恵美 教授

  • 保健学科/看護学専攻4年
  • 鎌田 若奈 さん

※肩書、役職は取材当時のものです。

看護技術開発学分野で学べる事と特徴を教えてください。

看護技術開発学分野では、最新の科学に基づく看護技術の開発を目指し、病態モデルを用いたエビデンスの構築に力を入れています。現在は、主に皮膚潰瘍や粘膜炎の機序解明とその課題に対するケア開発の研究に取り組んでいます。将来的には、治りにくい糖尿病性足潰瘍やがん治療で生じる放射線皮膚炎などに対する新しいケアを開発して社会に還元したいと考えています。本分野の特徴は、看護の観点から実験的な手法を用いて新規ケア技術の開発を目指しているという点ですね。

新規ケア技術とはどのようなものですか?

例えば現在、研究開発に取り組んでいる内容は、殺菌乳酸菌を含有した創傷被覆材です。既に市販化された製品でも治癒する創傷もあるのですが、既存の技術では治癒し難い創傷やもっと早く、きれいに治せる創傷被覆材を開発したいと考えています。

この技術について、企業と連携して特許も取得しました。医療、社会に還元できる技術を開発したいと考えています。

菅野先生が医療の道を目指そうと決めたのはいつ頃でそのきっかけはありますか?

医療の道を志そうと決めたのは、高校2年生の頃です。それまでずっと教育職に興味がり、教員になろうと思っていたのですが、高校2年生の進路相談の際に担任の先生に看護系教員を勧められました。ちょうどその頃、祖母が入退院を繰り返していて、大学病院にお見舞いに行く機会が多々あり、看護職を目指すことや将来的には看護系大学の教育職に就くことができたらいいなという気持ちが湧いてきて決めました。

先生がこの研究を専門にしようと思ったきっかけはありますか?

大学4年生の頃に卒業研究で、看護学科内の解剖学をご専門とされていた先生の教室に配属になり、褥瘡(床ずれ)の皮膚組織を組織学的に解析する研究に取り組みました。研究を通して、これまでの看護ケアは、看護の長い歴史の中で積み上げられたものが多く、経験的に実践されていることも多いという事実を知りました。その時に、将来的に看護技術のエビデンスを構築するような研究ができればいいなぁと、ぼんやり考えていました。

大学院の修士課程を修了した後、東北大学病院の神経内科と脳神経外科で看護師として働き、運動機能障害や麻痺のある患者様方と接する際に、幾度となく、皮膚に何かトラブルがあっても、どのようにケアを実践すればよいかわからない場面に遭遇しました。臨床で働く中で、それらの課題を解決に導くことのできる研究をしたいなという気持ちが強くなり、研究を志しました。

解剖の教室というと、医学系のイメージですが、看護系の分野だったのですか?

私は山形大学医学部看護学科の出身なのですが、当時、山形大学では看護学科の中に解剖学など基礎生命科学の研究室が複数ありました。各研究室では、医学系、薬学系出身の先生方のご指導により、それぞれの研究を医療・看護に還元する取り組みをしていました。卒業研究から修士課程においてご指導いただいた先生との出会いは、今の私に大きく影響しています。

私自身、入学後の研究室紹介に参加するまで、看護学で実験をする分野があるとは知りませんでした。受験生のときも殆ど情報がなかったです。一般的にもですが、実際に看護に関わっている人でも看護と実験はなかなか結び付かないと思うのですがいかがでしょうか。

看護学科を紹介する場では看護と実験が結びつく紹介をしているところは少ないかもしれません。看護学の領域で実験を行っている先生は少数ですが、近年は増えてきている印象を持っています。その先生方とは、看護師の視点から生活や治療環境の中で浮上する課題を解決していきたいと話をしています。ただ、実際の臨床の現場(病院など)で浮上した課題をそのまま病院内で検証することにはいくつもハードルがあるため、臨床に即した課題を大学や研究機関に持ち帰って検証し、その成果を臨床に還元することが役割であると考えています。

治療環境の問題について看護師だから気づく事はありますか?

非常に多くありますね。同じ疾患に対して同じ治療を実施しても、得られる反応は千差万別です。治療という一場面を切り取るのではなく、ベッドでの休息の場面や立ち上がる動作の介助など、複数の患者さんと接する環境を通して気づく点があります。

研究を行う上で大変なことや、やりがいを教えてください。

大変な事は沢山ありますね(笑)。研究費の獲得から、社会への還元まで、細かい大変な点があります。ただ、東北大学は医学系研究科内に共同で利用できる実験設備が整っていることにとても感謝しております。設備だけではありません。当分野の研究では、病理標本を作成することが多いのですが、専門のスタッフの方々がいてくださり、親身に相談にものってくださいます。

やりがいは、研究に取り組む中で、学部生や大学院生の変化を間近に感じることができる点です。実験を始める前と後で、学びを通して大きく変化する学生がいます。そのような学生達と共に研究や勉学に取り組むことができることが一番のやりがいだと感じています。

どのような学生生活を過ごしていましたか?

中学、高校と運動部に所属していて、休みはお盆とお正月だけというとてもハードな生活を送っていました。そのためか、大学に入学したら勉強をしっかりやろうと思って、講義や臨地実習にまじめに取り組んでいたと思います。それから、アルバイトをいろいろと経験しました。経験して最も良かったアルバイトは、とんかつ屋さんでのアルバイトです。昼から夜まで営業している飲食店のため、老若男女、様々なお客様に接客をしました。接客に力を入れているお店でしたので、店長からお客様対応を一から学びました。接する対象がどのようなことを求めているのかについて、予測する力が養われたように思います。就職後もその時の経験がとても活きていると感じています。飲食店のアルバイトは医療の道に進む学生全員に勧めたいです。

また、イベントや飲み会の企画をすることが好きでした。社会人になってからもスタッフと交流する機会を作って、職場ではなかなか話せない方ともお話する機会を持つことで、仕事が円滑に進むようになったこともありました。コミュニケーションがとても大事ですね。

コミュニケーションでいうと、東北大学は総合大学で、全学教育で他の学科と一緒に授業を受ける機会があり、とても新鮮です。いろいろな方と関わる機会があります。

また、実習を経験して、看護は本当にいろいろな人と関わるなと実感しています。患者さんの介助をするだけではなく、医師や他の職種の方との連携も必要ですし、患者さん家族と関わる機会もあります。いい意味で凡庸性があるというか、製薬会社などの企業で働く方もいますし、どこでも活躍できる要素を持っているなと感じています。

そうなのです。多分野、多職種と関わることができる環境が本学の魅力であると感じます。東北大学には大学院もありますし、研究や実習を通して、将来の選択肢が増えていくのではないかと考えます。

また、現在、看護学専攻では、学生が主体的に学びを継続できるよう、デジタルトランスフォーメーション(DX)プロジェクトを進めており、学生の皆さんが個々の力をさらに伸ばしていけるように支援したいと考えています。

最後に医学部を目指す受験生にメッセージをお願いします。

大学生の時代は、専門性を高めるために勉学に取り組むと共に、アルバイトやサークル活動などの課外活動を通して柔軟性を高める時期でもあると考えます。時代と共に看護・医療の在り方が変わってきており、最近は特にデジタル化が加速しています。就職後、例えば20年先に求められる力は、変化を捉え、変化に対応できる力だと思います。それには、自分の専門分野だけではなく、他分野の知識も必要ですし、いろいろな人と関わり、社会性を身につけること、コミュニケーション能力が重要であると考えます。

東北大学は総合大学であり、医学系研究科内、また他の研究科との共同研究が活発です。先生方はみなさん教育・研究熱心なので、「このようなことがやりたい」と相談するとしっかり話を聞いてくれるネットワークが構築されています。研究を含めて、学生教育は非常に手厚いと感じています。皆さんが、大学での様々な体験を通して、次世代の医療を担う人へと飛躍することを期待しています。

After Talk

インタビューを終えて

取材日 2022年12月6日

  • 保健学科/看護学専攻 4年(取材当時)
  • 鎌田 若奈 さん
  • [ 宮城県宮城第一高等学校出身 ]

今回のインタビューは東北大学を目指す高校生の皆さんへ向けたものでしたが、菅野先生の学生時代についてや、看護の魅力などを改めて知ることができ、私にとっても非常に有意義な時間となりました。

インタビューにもあった通り、東北大学は他学部・学科との交流があり、教育環境や研究が充実しているため、様々な側面から「看護」を学ぶことができると思います。東北大学医学部保健学科看護学専攻の魅力をこのインタビューを通して、皆さんに少しでもお伝えすることができていたら幸いです。

  • 保健学科/看護学専攻
    看護技術開発学分野
  • 菅野 恵美 教授

福島県出身。2001年 山形大学医学部看護学科 卒業, 2003年 同大学大学院医学系研究科看護学専攻 修士課程 修了, 2011年 東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 博士課程 修了。(職歴) 2003年 東北大学病院 看護師, 2006年 東北大学医学部保健学科 助手, 2008年 同大学大学院医学系研究科 助教, 2013年 同 講師, 2018年 同 准教授を経て2022年6月 東北大学大学院医学系研究科看護技術開発学分野教授に就任。