- 保健学科/放射線技術科学専攻4年
- 熊谷 圭悟 さん
- 保健学科/放射線技術科学専攻
医用物理学分野 - 権田 幸祐 教授
放射線技術科学専攻の特に医用物理学分野で学べることや特徴を教えてください。
医用物理学分野では、独自のナノ粒子を用いながら、疾患のモデル動物をイメージングしています。このようなモデルには、がんや血栓症、認知症、糖尿病などがあります。例えば放射線の1つであるX線をよく吸収する金属原子を材料としたナノ粒子を、モデル動物の静脈に注入します。そうすると、ナノ粒子は全身をめぐり、X線を照射することで血管の病変を高い分解能で可視化することができます。血管は先ほど挙げた病気の発症や進行に深く関わっていますので、詳しく可視化することによって病態を早期に、正確に知ることになります。このように病気のメカニズムを正しく理解してその概念を利用することで、放射線を活用したよりよい診断、よりよい治療につながるように研究を行っています。
学べることとしては、放射線科学全般の基本知識、放射線物理学の知識、放射線化学の知識さらには病態を知るうえでの基礎医学の知識を学びながら、血管や腫瘍などを可視化するための造影剤を、ナノテクノロジーを利用して作製します。造影剤を作製するときには、X線が物質に作用するとどのような変化や反応が起こり、その結果、X線がどの程度散乱や吸収されるのかを把握しなければいけません。完成させた造影剤を使って疾患のモデル動物をイメージングし、診断や治療の技術開発につなげていきます。
今のお話だと広い領域を見てらっしゃると思うのですが、広い分野を権田先生1人で指導されるのでしょうか?
私たちの分野は、私のほかにも放射線科学を専門とする教員がいます。放射線科学の中でも私が放射線物理学、そしてもう1人の教員が放射線化学を専門としますから2人で協力しながらやっています。医療の話や知識に関しては、外科を中心とした臨床の医師たちと共同研究しているので、議論を通して医療の知識をいれながら、まさに医工学的な視点で、放射線物理学、放射線化学さらには医療の知識を掛け算して研究を進めているところですね。
先生が医療の道を目指そうと決めたのはいつ頃で、きっかけはありましたか?
私は理学部の出身なのですが、最初は生物物理学や基礎医学的なことを研究していました。それらの研究では、皆さんが色として認識可能な可視光を使っていたのですが、その中でいろいろな光を使ってみたいと思うようになり、また研究の可能性を広げるために可視光より波長がかなり短くエネルギーの大きい光であるX線を使いながら研究をはじめました。その時にX線の物質吸収性を高めて可視化能を向上させるために金属原子を材料としたナノ粒子を使っており、理工学的な立場で医療にどう貢献できるだろうかと考えました。放射線技術科学専攻は理工学、医学、そして放射線技術学を融合したすばらしい分野で、自分の力を理工学にとどまらない範囲で応用できると考えて目指しました。
先生は理学の道から医学に入ってきたということですが、放射線技術学専攻にはそのような方は結構いらっしゃるのですか?
放射線技術学専攻には14名の教員がいます。出身学部として、医学、放射線技術科学、理工学の3専攻出身の教員が所属しているのですが、ちょうど3分の1ずつくらいの人数で構成されています。バランスよくお互いに足りないところを補完しながらみんなで協力しながら研究を進めています。
研究の大変なところや楽しいところはどんなところでしょうか?
大変なところは、自分がよく考えて研究の方向性をデザインし、それを実現するための実験や解析を一生懸命やったとしても必ずしも上手くいくとは限らないところですね。研究というのは、何か明らかにしたいゴールは見えているのだけれどもそこにたどり着く方法が分からないことがあります。よく学生には旅に例えながら教えますが、歩いて行くのか、車に乗るのか、飛行機なのか、ゴールは分かっているのだけれどもそこへの行き方、効率的なやり方がわからない。また目指していたところが、本当にゴールなのかどうかも行ってみないとわからない、ということもあります。だから、失敗をしたからといって決して考える事を諦めないで、そこから考えてひとつでもきっかけやヒントを得ることによって次に繋げるというところが大変なところです。考える事を諦めないところが一番大変ですね。
楽しいことは、研究の成果が出た際に、世界で一番初めに誰も知らない医学、医療情報を知り、また技術を開発する場面に立ち会えるところですね。それは疾患のメカニズムだったり、それを応用する診断や治療の技術だったり、概念もです。
その次に、私たちは研究成果を論文という形にしなければならないのですが、論文を発表すると、100年先にも200年先にも科学の歴史に必ず自分の名前が残るだろうと。私たちは100年前の人の技術をそのまま使っている訳じゃないけれども、だけどその蓄積として5年10年前の研究を使いながら研究をしているので、私たちが研究する時に先人の知識情報を使うのと同じように、私たちが未来の人たちの科学の発展の礎となるような情報や知識を提供することができる事に一番やりがいがあります。
最後に、私たち自身が医学医療に携わっているので、まさしく自分を知ることにもなるということです。なかなか自分自身を知ることができる学問は少ないので、ヒトはなぜ病気になるのだろうか、健康な状態ってどのような状態なのだろうか、健康な状態のどこがおかしくなるのが病気なのだろうか、それらを正しく理解することが自分を知ることにつながり、そういった意味で満足感があります。
私の高校生時代に放射線技術科学専攻は理科の中でも物理・生物・化学といったいろんなものを内包していて、理系の進路としてはとても「魅力的」と考える人が多かったのですが、やはり将来は放射線技師にしかなれないと考える人が多くて、どうしても進学を諦めてしまった人が多かったと思います。実際に他にどのような道があるのでしょうか、教えてください。
多くの方は放射線技師になります。その他にも、最近は研究者や技術者として放射線や可視光を扱う企業に進む人も増えてきました。理学部、工学部と同じように学部で勉強したことを大学院で活かして、そのあと企業に就職する方が多いです。また、行政で働く機会もあります。例えば、医薬品医療機器総合機構(PMDA)では、医療機器や医薬品の審査を行っているので、放射線技師の知識や経験を活かすことができます。あと、放射線技術学を教える学校では放射線技師の資格を持った教員を一定数採用しているので医療技術専門学校や東北大学のような医療系の大学の教員の道もあります。ただ、理学部や工学部だと教職課程があり、高校教員に必要な教員免許を取得できますが、放射線技術学専攻の場合は、専門性が高く、教職課程を履修する余裕はないかもしれません。医療や医療機器の発展に伴って、放射線技師の仕事の幅はこれからどんどん広がっていくと思います。
受験生や学生のうちに身につけておきたいこと、やっておいた方がいいと思うことはありますか?
勉強に関しては、放射線技術科学を学ぶには数学をたくさん使うので、数学を頑張って欲しいです。そして自分が選択している物理・化学・生物をしっかり学んでほしいなと思います。さらに一歩先を行きたいなと思う人は英語も重要ですね。なぜかというと最先端の情報はすべて英語です。翻訳されてからだと数年遅れてしまいますから、最新の情報を得るためには語学の能力は重要です。他には、研究ではデータの解析に統計学的評価をよく使うので統計学を学んでおくといいでしょう。
また、放射線に限らず、医療の道に進むにはコミュニケーション能力がとても大切です。病院では不安を感じている患者さんに安心して検査を受けてもらえるように対応が必要ですし、たくさんの医療スタッフと協働して働いています。研究者もさまざまな方と関わり、協力しあってプロジェクトを進めます。部活動やアルバイトでも、学生のうちにたくさんの経験をして、社会性を身に着けてほしいですね。
あとは興味があることを見つけて、それを深く掘り下げる努力と経験があるととてもいいですね。放射線技術学はどんどん発展していく学問領域なので、最近の医療のトピックスはもちろん、放射線技術学のトピックスなどにも敏感でいてほしいです。
医学部を目指す受験生へメッセージをお願いします。
「研究第一」を建学理念とする東北大学では、放射線技師の育成と教育はもちろんですが、放射線技術を使って、どうやって新しい技術を生み出すのか、これからの医療に大きく貢献する研究力を持った人材を育てています。
医療に携わりたいという強い気持ちと、大きな使命感、責任感、そして希望をもって入学してほしいですね。