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脳内グリアのハイパードライブ てんかん様神経発振を引き起こすグリア細胞の作用を発見
発作を抑える抗てんかん薬(注1)の開発は進んでいるものの、全ての患者で発作がコントロールできるわけではありません。また、そもそも、てんかん(注2)の発作は、どういったきっかけで起きるのか、未だにそのメカニズムの多くは謎に包まれています。
東北大学大学院医学系研究科の荒木峻大学院生(研究当時)、大学院生命科学研究科の松井 広教授らのグループは、実験動物のマウスを用いて、脳の中の海馬に光ファイバーを埋め込み、グリア細胞(注3)の中でもアストロサイト(注4)の活動を光計測(注5)しました。脳内に金属の銅を人工的に埋め込むと炎症反応(注6)が生じ、てんかん様の神経発振現象が、1日に数回、散発的に生じるようになることが知られています。そこで、銅留置による神経過活動を調べたところ、神経発振に20秒程度も先立ち、アストロサイトの活動が始まることが示されました。さらに、アストロサイトの活動を電気的に刺激する方法や、アストロサイトの代謝機能を薬で阻害する方法などを組み合わせることで、アストロサイトが脳神経活動を強力に誘導(ハイパードライブ)することを明らかにしました。アストロサイトの活動制御がてんかんの新たな治療戦略となることが期待されます。
本研究成果は2024年4月9日付で脳科学の専門誌Gliaに掲載されました。
DOI:https://doi.org/10.1002/glia.24537
【用語説明】
注1.抗てんかん薬: 抗てんかん薬は、脳の神経活動を調整し、異常な神経活動を抑制することによって作用します。抗てんかん薬には、作用機序の異なるさまざまな種類がありますが、一般的には、神経細胞の興奮性を抑制することで発作の発生を防ぎます。抗てんかん薬は長期間にわたって使用されることが多いですが、副作用や耐性の問題が発生することがあります。
注2.てんかん: てんかんとは、脳が一時的に過剰に興奮することによって、意識を失ったり、けいれんが生じたりする発作を引き起こす病気です。てんかん発作では、脳の神経細胞において、過剰な電気的興奮が生じます。脳波計で記録すると、多数の神経細胞が周期的に活動する様子が分かるため、このような神経活動を、神経発振と表現することがあります。てんかんの原因はさまざまであり、遺伝的要因、脳の損傷、脳の発達異常、感染症、脳腫瘍、脳血管障害、または外傷などが関連すると考えられています。てんかんには、一度または数回の発作のみを経験する人から、頻繁に発作が起こる人まで、さまざまな程度の重症度があります。また、てんかんによるけいれん発作が繰り返されると、次第にてんかんが増悪化する場合も多いことが知られています。
注3.グリア細胞: 脳実質を構成する神経細胞以外の細胞は、総称して、グリア細胞と呼ばれていて、脳内には神経細胞に匹敵する数のグリア細胞があります。グリア細胞は、大きく分けて、アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトに分類されています。脳内での情報処理は、膨大な数の神経細胞同士が織り成すネットワークを通して行われていると考えられています。一方、グリア細胞は、神経組織を構造的に支え、神経細胞に栄養因子を受け渡すためだけの細胞群であると長らく考えられてきました。しかし、近年、グリア細胞からの作用を通して、神経回路の動作は種々な影響を受けていることが報告されています。
注4.アストロサイト: アストロサイトは、グリア細胞の中で一番多く存在し、脳内の血管と神経細胞間のシナプスの双方に突起を伸ばすことから、特に神経情報処理との関連が深いことが推測されています。このアストロサイトは、周囲の神経細胞の活動に反応し、何らかの伝達物質を放出したり、イオン濃度調節機能を発揮したりすることで、神経回路の動作に影響を与えます。しかし、アストロサイトは、単に、神経活動に対して受動的に反応するだけではなく、むしろ、アストロサイトからの能動的な働きかけが原因となって、神経細胞の働きが制御されている可能性が指摘されています。
注5.光計測: 脳深部に光ファイバーを刺し入れて、蛍光信号を計測する方法をファイバーフォトメトリー法と呼びます。本研究では、細胞内のCa2+に応じて、蛍光特性が変化する蛍光センサータンパク質を、脳内アストロサイトに人工的に遺伝子発現させたマウスを用いました。なお、当研究室では、細胞内Ca2+をセンス(検出)するように設計された蛍光センサータンパク質でも、局所血流量等の変動によって、蛍光信号は影響されてしまうことを示してきました。そこで、本研究では、これらの影響を選り分ける工夫が施された手法を用いて、細胞内Ca2+濃度の変動を抽出して解析しました。
注6.炎症反応: 脳組織に金属が接触すると炎症反応が起こることがあり、神経細胞の損傷や神経機能の障害に進行することがあります。銅は、神経細胞の正常な機能に必要な微量元素の1つではありますが、過剰な銅の蓄積は、神経毒性につながります。一方、タングステンやプラチナ等の金属は生体適合性が高いため、脳波記録用の電極の素材として使われています。
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 松井 広(まつい こう)
TEL: 022-217-6209
Email: matsui*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋 さやか(たかはし さやか)
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)