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抗体創薬学分野の加藤 幸成教授らの論文がOncology Reportsに掲載されました
膜タンパク質のひとつであるCD44(注1)は、食道がんを含む多くの腫瘍で高頻度に発現し、腫瘍の悪性化に関与していることから、患者の予後不良因子としても知られています。CD44に対し、これまで多くの抗体が世界中で開発され、臨床治験も行われてきましたが、どの腫瘍に対しても有効な治療法にはなっていません。
東北大学大学院医学系研究科抗体創薬学分野の加藤 幸成教授の研究グループは、多くの膜タンパク質に対する抗体医薬(注2)の開発を行っており、CD44に対する抗体開発も行ってきました。本研究では、2種類の抗CD44抗体を治療用抗体に改変し、抗腫瘍効果のメカニズムの解析を行いました。がん細胞に対する傷害活性として、抗体依存性細胞傷害(ADCC)(注3)活性とCDC活性(注4)の2つがよく知られていますが、今回の解析により、抗CD44抗体については、CDC活性が重要であることを明らかにしました。
本研究成果は、2024年8月29日、欧州の科学誌Oncology Reportsに掲載されました。概要はYouTubeの抗体創薬学分野チャンネルでもご覧いただけます。
【用語説明】
注1.CD44:細胞間相互作用、細胞接着および遊走に関わる細胞表面糖タンパク質。ヒアルロン酸(HA:hyaluronic acid)のレセプターであり、オステオポンチン(osteopontin)、コラーゲン、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP:matrix metalloproteinase)などの他のリガンドとも相互作用することができる。CD44は、リンパ球の活性化、再循環/ホーミング、造血および腫瘍転移を含むさまざまな細胞機能に関与する。
注2.抗体医薬:抗体とは、リンパ球のうち、B細胞が産生するタンパク質で、特定の分子(抗原)を認識して結合する。血液中や体液中に存在し、細菌やウイルスなどの微生物に結合すると、白血球による貪食が起こる。がん細胞に結合しがん細胞を殺す働きもあり、多くの抗体医薬品が臨床で使用されている。
注3.抗体依存性細胞傷害(Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity:ADCC)活性:抗体に結合した細胞や病原体が、抗体を介してマクロファージやNK細胞などの免疫細胞によって傷害される。
注4.補体依存性細胞傷害(Complement Dependent Cytotoxicity:CDC)活性:抗体が標的細胞(がん細胞やウィルスなど)の抗原に結合すると、複数の補体が次々と反応して活性化する。細胞の表面で一連の反応が起こり、標的細胞を溶解する。