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学際領域ゼミ

平成29年度第1回学際領域ゼミ
東北大学大学院薬学研究科 生物構造化学分野 教授
中林 孝和 先生

本学大学院薬学研究科生物構造化学分野の中林孝和教授に、光の基礎と生体・治療への応用の話をご講義いただきました。

光について

光は波の性質と粒子の性質の双方を兼ね備えた量子であり、21世紀は光に関する発見の世紀と言われている。光のエネルギーは波の長さで決まり、波長が長いほどエネルギーが低くなる反比例の関係にある。世の中に存在するものは必ず何らかの光を吸収するが、その特徴が生命科学や医療に広く応用されている。

光を使って体を見る

医療現場でよく知られているレントゲンやCTでは、X線という光を体に照射し、透過してきた光の量をモニターする。すなわち、体がどれだけ光を吸収したかを検出し、それを画像化することで、体内を透視するのである。ただし、X線はエネルギーが非常に大きいので、頻回に測定することは難しい。そこで、X線よりも波長が長く、エネルギーの低い近赤外線が注目されている。近赤外線は体の中をある程度通過することができるので、生体のイメージングが可能となる。実際に医療現場では血中の酸素濃度(ヘモグロビン濃度)を近赤外線透過度の変化によって測定しており、脳血流の酸素濃度の変化を捉えたり、乳がんの治療効果をモニターできることも知られている。

講義の様子

光を使って治療する

赤外線・近赤外線の生体透過性を利用したがん治療の可能性も見出されている。抗体等を利用してがん細胞を標的にした抗体薬物複合体を投与し、体外から近赤外線を照射すると、その薬物が光エネルギーを吸収して活性酸素を生じ、がん細胞を選択的に死滅させる治療法が検討されている。治療は薬物の静脈内投与と、エネルギーの低い近赤外線の体外からの照射によるため、極めて低侵襲な治療法となる。

中林先生の研究室では、上記機序の応用として、活性酸素を容易に発生するフラーレンという物質を用いる研究を展開している。通常、C60のフラーレンは水に難溶であるが、アミロイドベータ(アルツハイマー型認知症の原因と言われている)と混合すると複合クラスターを形成し、容易に水に溶かすことができる。ちなみにアミロイドベータとフラーレンの複合体に近赤外線を照射すると、フラーレンから生じた活性酸素がアミロイド繊維を破壊することも見出している。

このように近赤外線のような低いエネルギーの熱エネルギーへの変換は、局所的な治療など、さまざまな分野への応用が期待されている。

文責:医化学分野 大学院生 堀内 真
撮影:医化学分野 大学院生 山岡 彩香

※所属や職名などは、記事発表当時のものとなっております。

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