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大学院特集2016 医科学専攻
2016.4
生物化学分野
五十嵐 和彦 教授
Q.どのようなテーマで研究をされていますか?
一番大きな関心は、未分化な状態の幹細胞がどうやって様々な機能を持つ細胞に分化していくのか、ということです。私たちは血球細胞の分化を中心に研究していますが、骨髄にある造血系幹細胞が未分化な状態を保ったまま自己増殖を行う一方で、一部の細胞が最終的には11種類をこえるといわれている細胞に分化していく、そのメカニズムを研究しています。特に、細胞の内的な変化、遺伝子発現の変化が分化の過程でどのように変化していくか、あるいは、遺伝子発現を制御する転写因子とクロマチン構造との相互作用といった問題に焦点を当てています。細胞分化の本質は、遺伝子発現の変化にあると考えています。分化の研究がどうして重要かというと、私たちの体が作られる原理を理解すると共に、病気の理解にもつながっていくからです。例えば、がん細胞においては、細胞の分化に異常をきたしていることが一つ大きな原因となっています。細胞分化の仕組みを理解することで、分化を誘導し、がん細胞が増殖できない状態を創りだすことができるかもしれません。
Q.医科学専攻の特徴を教えて下さい。
まず、医学の基礎から臨床まで多くの分野を網羅している、多彩な教授陣がいることだと思います。また、創生応用医学研究センターを中心として、分野間の融合的な研究を進める組織も作られており、がんや神経、免疫、代謝疾患などの社会問題となっている病気に研究科をあげて取り組む体制が組まれています。さらに、本研究科では多くの先生に協力を頂きながら共通機器の充実に力を入れています。次世代シーケンサーや質量分析計、セルソーターといった非常に高額な機器を研究科として整備して、担当教員と技術員が協力して皆さんの研究をサポートできる体制にしています。機器が無いから研究できないということがない、良いアイデアがあればいくらでもやりたい実験ができる、そういった環境を目指しています。
Q.どのような学生を求めていますか?
基礎医学ということを考えると、まず、探究心があることですね。基礎的な研究というのは内なるモチベーションが非常に重要になると思います。医学の領域では、最終的な目標が病気の治療・予防や社会問題の解決ということになりますが、「人の役に立ちたい・社会に貢献したい」という動機のみでは、研究は続かないと思います。基礎研究というのはなかなかすぐには役に立ちませんが、それが変な焦りになるようだと自然を曇った目で見ることになりかねません。動機が自分の外にあるというよりは自分の内側にある、自然を理解したい、知りたい、強くそう思う学生が自主的に研究をやっていくということが大事だと思います。
また、特に基礎研究は探検と一緒で、どうなるかわからないという点でも、内なる探究心がないとなかなか続かない。実験結果はしばしば予想と違ったものになります。自分の仮説が正しくない、というのは、ガッカリするかも知れませんが、正しい理解に一歩近づくという点で意義の大きいことです。結果を受け入れ、仮説を修正していく姿勢、仮説にとらわれすぎないことが大事になります。また、予想外の結果は大きな発見の糸口となることもしばしばあります。自然は自分の想像力を越えているという事実を楽しみ、謙虚に自然から学ぶことだと思います。医学の研究には、確固たる正解があるということはありません。ある時点での正解は次の時点では間違っていたということになるかもしれません。しかし、逆に考えると、正解がないということは日々新しい発見があるということです。これは、研究活動を通して自分が進化していくことでもあります。常に新しいことを学び、発見し、それに基づいてそれまでのとらえ方や考え方をより正しい方向へと進化させていく、そのような変化とプロセスを楽しめる学生を求めています。
Q.医学部で基礎生命科学を研究するということはどんな意義がありますか?
これまでの生命科学研究や医学研究ではヒト自身を対象とした基礎研究はなかなかできなかったわけですが、近年、全ゲノム配列を決定できるとか、微量なサンプルでも遺伝子の発現を測定できるとか、外から体の中の状態を非侵襲的にモニターできるとか、技術の進歩によってヒト自体を対象として様々な仮説を検証する研究ができるようになりつつあります。ヒト培養細胞でのゲノムの操作も、倫理的問題はありますが行われつつあります。ヒトの生物学が現実的に可能になってきたわけです。そして、ヒトの生物学に取り組む場所としては、やはり医学部という場所は強力です。ゲノムの多様性に基づいたヒトの多様性を対象として研究が進んでいくと、ある病気になりやすい人を発症前に見つけ、その人に一番あった予防法や治療法が開発できるようになると思います。ゲノム情報を駆使した、多様なヒトそのものを対象とする生物学的研究がこれから益々重要になるでしょう。このような時代、医学研究に興味があるのに参加しないということは、もったいないことだと思います。ぜひ挑戦してみて下さい。
※所属や職名などは、記事発表当時のものとなっております。