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学際領域ゼミ

平成29年度第4回学際領域ゼミ
てんかん学分野教授
中里 信和 先生

中里先生は,脳神経外科医の経験を経て、日本で初めて「てんかん学分野」という講座を開設されました。また2015年、東北大学病院に設立された「てんかんセンター」のセンター長も兼任されています。
今回のゼミは最初に中里先生よりてんかんについての基礎知識をご享受いただき、後半はテレビ会議システムによる「遠隔&多施設てんかん症例検討会」の実演へと続きました。

てんかんの基礎知識

てんかんとは、繰り返し起こる脳の異常活動によっておこる病気で、すべての年代に起こりうる病気です(有病率1%)。いつでも誰でも起こりうる病気ですが、発作を有する病ため仕事を失う、家庭生活が破綻するといった事態に追い込まれている方々がいらっしゃり、その方々の人生の選択肢を増やし、前向きに歩んでもらえるように手助けすることがてんかん医のお仕事であるとお話しされていました。

実際にてんかんという病気が引き起こす様々な症状については正しく理解されていないことが多いのが実態で、その中には医療職も含まれているため中里先生はてんかん発作の種類と理解への教育が必要であると指摘されていました。先生は教育目的のため、プロの役者さんらによるてんかん発作時のビデオを作成しました。

ビデオでは全身けいれんが起きた時には、まず介抱する側が落ち着いて、安全な場所に横になってもらい、発作の終息を見守ること、舌を噛まないように口に何かを噛ませることは不要とのことでした。大きなけいれんだけが発作ではなく、食事中に意識が遠のき茶碗を落とす(意識減損)や口をモグモグと動かし続けるといった自動症、一点凝視などがあり、ご本人も周囲の人も発作と気づきにくい症状がビデオで紹介されました。てんかんは異常活動が脳のさまざまな場所で起こることからその症状も多様であることを学びました。

てんかんの主な治療は抗てんかん薬の内服で、正しい治療により約7割の患者さんは発作が消え、8割近い患者さんが普通の生活をおくることができるそうです。患者さんの約3分の2は外来通院されていますが、難治症例の患者さんには外科的手術が行われることもあります。また、治療方針を決める為、4日間のビデオによる発作と脳波のモニタリング入院のシステムがあります。

東北大学では月に1回てんかん症例会を行っており、メンバーは医師や看護師、検査技師の他に臨床心理士が参加しており患者様の心理社会的精査、置かれた状況を理解し患者さんご自身の持つ自尊心の低下、セルフスティグマを改善できるようチームで取り組まれているとのことでした。

講義の様子

光を使って治療する

テレビ会議システムの連携先は星稜オードトリアムから東北大学病院てんかんセンター、気仙沼病院、北海道大学、札幌医科大学、聖マリアンナ大学、九州大学、大芝病院、個人の先生のIPADと多施設が1つの画面内に同時に映し出されました。症例検討会では東北大学てんかんセンターにモニタリング入院された患者様の映像とMRI、脳波にPETに神経心理検査、患者様の家族・社会的背景、支援状況など多角的に患者様の状況をとらえ、治療や今後のケアが考察されていました。てんかん発作時の脳波は非常に複雑なため、読み取るための専門的な知識や経験が求められ参加加されている先生方は、この症例検討会はその技術も学ぶ貴重な機会であるとコメントされていました。その際にテレビ会議システムで映し出されるMRIや脳波の画像は非常に鮮明でまた参加する先生方の会話や動画のタイムラグもなくストレスを感じず検討会をされているそうです。

また、モニタリングビデオの中では普段の患者様の状態を良く知るスタッフがいち早く発作の前兆(会話時に目を合わせないで話すなど)に気づき対応されていました。てんかん発作の形態は患者様それぞれに多種多様なため、中里先生は患者様ご自身が「自分の発作についてよく知る」ことが大切ですと強調されていました。

北海道大学病院小児科てんかんセンターの白石医師より広大な面積を有する北海道での遠隔テレビ会議によるてんかん治療のネットワークについてご紹介いただきました。遠隔地からコンサルテーションできることはこれから活躍する若い医師にとっても心強く地域医療を支えてゆくエネルギーを生みだせるとお話しされていました。また患者様にとっても遠方の大学病院に行かなくてもテレビ会議システムを通じて、てんかんの診察を受けることができ、非常に利便性が高く負担を軽減できるとのことでした。

遠隔てんかん症例検討会

ICTを利用した今後の医療保健ネットワークの展開への期待

最後に、TV会議システムを提供しており、今回のゼミでもシステムのサポートをされていたポリコムジャパンの尾崎さんより、日本のICT事情についてお話をいただきました。現在安倍政権の働き方変革の影響もあり、企業でのICTの取り組みはどんどん進んでおり、テレビ会議システムの普及もその一つだそうです。近い将来、さまざまな医療保健分野でもこのシステムが導入されることで可能となる支援やサービスが増えることを望みます、と今後の新しい展開への期待を感じました。

文責:公衆衛生看護学分野 佐藤 清湖
撮影:公衆衛生看護学分野 森田 誠子

※所属や職名などは、記事発表当時のものとなっております。

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