基礎講座の百年

1915年の勅令第115号によって、解剖学3講座、病理学・病理解剖学部1講座、薬物学1講座、生理学2講座、医科学1講座及び細菌学1講座が設置されました。現在への伝統を受け継ぐ講座の先生がたに、講座の歴史とこれからの展望をうかがいました。

生物化学分野の、今までとこれから

五十嵐 和彦|生物化学分野 教授

医化学教室時代からの長い歴史を持つ生物化学分野の第六代教授、五十嵐和彦教授から、当研究室の歩み、今後の展望についてお話を伺いました。

ダーウィン、コペルニクス、ガリレオ

よく、前任の岡本宏先生が「君らはダーウィンとかコペルニクスとか、ガリレオの学問を目指せ」ということをおっしゃっていたのが印象的です。岡本先生は膵臓のランゲルハンス島の分子生物学を開拓した世界の第一人者で、誰にでもできるようなことをやっていてはだめだ、ということですね。当研究室には、その岡本先生の遺伝子発現研究と、岡本先生の先代である菊地吾郎先生のヘム研究の二つの流れが合流し現在へ受け継がれています。

医学研究の道へ

今現在の研究室の活動についてのお話は、私がなぜ医学を志したかという話にさかのぼります。やっぱり昔は今と違って、全然情報のない時代でした。そんな中、テレビで、時々ガンなど病気の研究が紹介されることがあって、そういうのを見ていた時に、なんでガンという病気が起きるのかな、って興味を持ったことが最初のきっかけだったと思います。医学を研究できると面白いし世の中の役にたてるのかな、と思ったという、もう本当に単純なことです。
医学部に入ってからは、色んな授業を受けて一生懸命知識を積み上げていました。でもあるとき、不思議に思ったのです。例えば顕微鏡で覗いてみたって、それは結果を見ているだけじゃない?って。見た目はきれいな構造ですが、そもそもどうして受精卵からいろんな細胞や組織が出来るのか、なんで正常にできていたものが変になってがんみたいな病気になるのか。見るだけでは全然分からないなと思ったのです。そこから細胞の分化だったり遺伝子発現だったりに興味を持って研究を志すようになりました。

偶然の大発見

当研究室は、これまで主宰された教授や所属された先生方がたくさんの重要な発見をしてこられました。僕自身が関わった研究でやはりこれが一番すごい発見だなと、東北大学で研究していたからこそ発見できたと思うものがあります。それがヘム注を結合する転写因子、Bach1とBach2です。どうしてこの転写因子がヘムを結合することが分かったかというのは、正に東北大だったからです。当時僕は林典夫先生(菊地吾郎先生の直弟子のお一人)が教授である第二医化学教室の助手として、大学院生と一緒に研究をしていました。あるとき彼が低温室からでてきて、メガネを曇らせながら、「Bach1のタンパク質をとったはずなんですけど、きれいにしたはずなのが、こんな、茶色いんです」って言うわけです。僕も「なんでタンパク質が茶色くなるの?」って思ったわけです。二人であーでもない、こーでもないと話をしていたら、そこにたまたま林先生が通りかかって、「これヘムじゃないの?」とおっしゃったのです。実際に、調べてみたら、本当にヘムでした。これは、林先生でなければ気づかないことだったでしょう。僕が自分ですごいなと思う点は、高等生物でヘムを結合する転写因子の第一例をみつけた、ということだけではなくて、当時あまり注目されていなかったヘムが転写因子に結合することの重要性を、研究に参加した皆で信じながら研究を続けて来ることができた点です。

今後の展望~基礎研究を臨床へ~

私たちの発見は、まだ実際に役にはたっていないのです。病気の理解、という点では役立っていると思いますけど、予防なり診断なり、治療なり、そういうところに役にたつのかどうかということは、これからの大きな課題です。
現在は臨床の先生たちとの共同研究も行っていますので、そのような領域に踏み込んでいきたいと考えているところです。


注:ヘムとは、体の中で酸素を使った反応を触媒する補欠分子のこと。ほぼ全ての細胞で合成され、酸素代謝や電子伝達を担う。

[ Interview, Text:医科学専攻修士課程 石井若菜 2016.3]

五十嵐和彦

生物化学分野教授

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