基礎講座の百年

1915年の勅令第115号によって、解剖学3講座、病理学・病理解剖学部1講座、薬物学1講座、生理学2講座、医科学1講座及び細菌学1講座が設置されました。現在への伝統を受け継ぐ講座の先生がたに、講座の歴史とこれからの展望をうかがいました。

あの感動をもう一度 -免疫学の未来を拓く-

石井 直人|免疫学分野 教授

座右の銘は「情けは人のためならず」。今自分のためになるとわからなくとも、全力で誰かのために、免疫メカニズム研究に取り組む石井直人教授に話を伺った。

「世界初」の発見

あんなに興奮・感動したのは人生の中で一番ですね。大学院2年次に細菌学教室第四代教授 菅村和夫先生の下で、サイトカイン*1の一つであるインターロイキン-2(IL-2)受容体を構成する第三のサブユニットであるγ(ガンマ)鎖*2の発見に立ち会うことができました。世界中が探していた分子を東北大学のこの研究室がこのフロア、この部屋で発見したわけです。その後、実際に私はγ鎖に関係する研究をしたのですが、出すデータ全てが世界で初でした。それらの仕事が論文としてすぐに世界に発信された。それに勝る経験というのを是非これからもう一度したいなというのが、今も研究を続けているモチベーションになっていると思いますね。

細菌学教室の歩み ~細菌からウイルス、そして免疫へ~

細菌学教室の歴史を振り返ると、初代の青木薫先生は細菌の毒素の研究をされていたという風に聞いています。第二代が黒屋政彦先生。抗生物質のペニシリンを日本で最初に精製したことで非常に有名です。第三代がその弟子で、石田名香雄先生。第15代東北大学総長で、東北大学卒業生としては最初の細菌学教室の教授となりました。感染症は細菌学からウイルスの時代に移ったことに気が付かれ、センダイウイルスを発見されただけでなく、東北から産学連携を起こすインテリジェント・コスモス構想を立ち上げた大先生です。第四代には私の先生である菅村和夫先生がおられます。石田先生の弟弟子に日沼賴夫先生がいらっしゃるのですが、日沼先生は、成人T細胞白血病の原因ウイルスを発見され、ウイルスがヒトの発がんに関わるということを世界で最初に証明しました。菅村先生がこの大発見に立ち会ったことで、先生のライフワークとなるT細胞増殖シグナルの研究が始まっています。
今私が研究を行っているOX40リガンドの研究も成人T細胞白血病ウイルスの発見に原点があり、やっぱり研究は研究室の歴史と直接つながっていると感じています。

免疫研究のスペシャリストになるまで

白血病というのは私の人生のキーワードになっています。10歳の時、父が白血病にかかったことがきっかけで、血液の病気を治すお医者さんになりたいと思いました。医学部に入り、骨髄移植を学びたくて東北大学抗酸菌病研究所(現加齢医学研究所)の小児科へと進みました。IL-2受容体のγ鎖発見の感動がきっかけで臨床から基礎に移ってからは、ずっとT細胞の研究をしています。現在は、成人T細胞白血病ウイルスの感染によって発現誘導される分子としてクローニングされたOX40リガンドの研究を通じて、T細胞免疫反応やT細胞免疫記憶のメカニズム解明を目指した実験を進めています。

次世代と共に

若い皆さんには、色んなこと、やってみたいことは全部実行して欲しいと思います。その中で多分自分がやりたいことっていうのは見つかるのではないかと思います。一方で、自分の意志とは関係なくやらなきゃいけなくなったことは、一生懸命やるっていうのが大事だと思うんです。私が細菌学教室に来たのは、小児科の今野多助教授に言われたからでした。しかし細菌学教室に来てみると、そこではまさに世界の大発見がされる直前だった…。非常に幸運でしたし、そこが私の研究者としての原点です。目の前にあることを一生懸命やる、そうすればその先に自分が予想してもいないような楽しいことが、きっと来ると思います。私はあの時の感動をもう一度、今の若い人達と共に経験したい。そこからまた次世代の研究者が育ってくれたらいいなと思っています。

注釈
*1 サイトカイン:免疫システムに関与する種々の細胞から分泌され、細胞間情報伝達に関わるタンパク質。
*2: γ(ガンマ)鎖:IL-2受容体はα鎖、β鎖、γ鎖の3つのサブユニットによって構成されており、γ鎖はそのひとつ。

[ Interview, Text:医科学専攻博士課程 五十嵐 敬幸 2016.5]

石井 直人

免疫学分野 教授

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