基礎講座の百年

1915年の勅令第115号によって、解剖学3講座、病理学・病理解剖学部1講座、薬物学1講座、生理学2講座、医科学1講座及び細菌学1講座が設置されました。現在への伝統を受け継ぐ講座の先生がたに、講座の歴史とこれからの展望をうかがいました。

解剖学研究の新たなパラダイムシフトを見据えて

大和田 祐二|器官解剖学分野 教授

大正4年、東北帝国大学医科大学の設立と共に3講座で発足した解剖学分野。その長きにわたる歴史の新しい1ページに、脂質のダイナミクスに着目した研究を綴る大和田先生。学生の多様性が光る、器官解剖学分野はどのようにして創られ、これからどんな新しい知見を切り開いていくのだろうか。

歴史ある解剖学教室の流れにのって

幼少期に芽生えた『難病を克服してやろう』という思いから医学の道を進むことに決めました。東北大学入学後は、第一解剖学教室初代教授の布施現之助先生が作られた昭和舎注に入って勉強させてもらいました。私が入学したのはもう30年以上前になりますが、当時、解剖学というのは最も厳しい教科のひとつでした。正直なところ、今こうして解剖学を教えることになるとは、当時は夢にも思っておらず、非常に感慨深いものがあります。学生時代に最も印象に残っている解剖学(第一解剖学講座)の石井敏弘先生、学生時代に熱中した野球部の顧問でお世話になった脳神経外科の鈴木二郎先生、卒業後に脳外科医としての指導を頂いた脳神経外科の吉本高志先生、解剖学研究の面白さを教えて頂いた近藤尚武先生など、人生の岐路で大きな影響を受けた先生方を思い出すにつけ、やはり自分は東北大学の中で育てられてきたなぁと感じています。

医学でも最も古い学問の一つ

解剖学自体は、ガレノスやヴェサリウスの時代から引き継がれてきた、最も古い医学の中の学問のひとつです。当初肉眼で形を追っていた時代から、顕微鏡の発達によりレンズを通して見えるものに研究の主体が少しずつ動き、より精巧な構造の記録が進められました。さらに最近では分子生物学の発展から、分子の働きと形の関係を突き詰めようという流れが加速しています。現在、解剖学は大きく二つの潮流に分かれており、一つは「形がなぜ表現されるのか」という、まさにメカニズムを分子から解き明かそうというアプローチ。もう一つは、「形をさらに精巧に見よう」という動き。私は前者のような流れで、分子に着目して働きと形を捉えるという新しい解剖学の在り方を自分の研究に取り込んでいます。つまり「どうやったら形が創られていくのか」という歯車やメカニズムを見たい。そしてそれが疾患にどうつながっているのかを探りたいと思っています。

静から動へ ~脂質を捉える~

私は現在、三大栄養素の一つである脂質が、体の中の様々な細胞や臓器にどのように影響するのか、という研究をしています。動脈硬化・脂肪肝などという疾患で、脂質は過剰摂取が悪いということは古くから知られていますが、今私達は神経系の構造、高次脳機能、あるいは精神疾患に脂質がどのような影響を与えるかというメカニズムを研究しています。
脂質というのは、今まではほとんどが静的な数値上のデータとして捉えられていましたが、それが最近は動的なものとして、例えば、ある脂質に蛍光トレーサーをつけて、その脂質が細胞の中のどこを動いているか、あるいは膜のどういったドメインに集約しているかを観察しようという試みがなされています。脂質の動態はダイナミックであり、相互作用する相手は多様です。これまでは遺伝子やたんぱく質の場所や動きを特定する研究が押し進められてきました。今度は、脂質に関して同様のアプローチが進むことで理解が広がる可能性があると思います。難しいから面白いというところもあって、もし細胞の動きや形態の変化と脂質のダイナミクスが表裏一体に表現できるような発見ができれば、とても楽しいでしょうね。

注釈
昭和舎:昭和2年に布施現之助解剖学教授 (当時)の尽力により設立された学生寮。在寮資格は医学部の男子学生。移転の後、2000年9月1日に焼失し、現存せず。

[ Interview,Text : 医科学専攻博士課程 五十嵐 敬幸 2016.3]

大和田 祐二

器官解剖学分野 教授

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