基礎講座の百年

1915年の勅令第115号によって、解剖学3講座、病理学・病理解剖学部1講座、薬物学1講座、生理学2講座、医科学1講座及び細菌学1講座が設置されました。現在への伝統を受け継ぐ講座の先生がたに、講座の歴史とこれからの展望をうかがいました。

「世界に先駆けた薬理学研究を目指し、紡いできた百年間」

柳澤 輝行 |分子薬理学分野 教授

薬理学教室は今年百周年目を迎えた。先生が入学して間もなく第二薬理学講座ができ、教授就任後、分子薬理学分野となった。伝統を受け継ぎ、新時代の薬物治療を目指し、研究、教育に勇往邁進する柳澤先生にお話を伺った。

新発見の機序をもつ治療薬で社会に貢献したい

教室は高血圧・狭心症治療に必須のカルシウム拮抗薬の発祥の地です。その伝統の下、イオンチャネル作用薬を中心として循環器系治療薬の研究を行ってきました。カリウムチャネル開口薬の発見ができて、酸素不足の心臓を守り助ける有益な治療薬と認められ、アメリカを除く世界中で用いられています。注意深くなく不実な治験と結果的にその薬が使えない国の人々は不幸であります。一方、超高齢社会となり慢性心不全の患者さんも顕著に増えています。心不全という大きな症候群に対して、その人の心不全の原因が主に何なのか、そして予後がどうなるかということを血液検査などで簡単に予測できます。30年前に比べて、各人の心不全の病因から予後までがわかる時代なのです。自分では今さらの感がないわけではありませんが、30歳代に開発に関与した強心薬が着実に再評価され用いられているようです。心臓への負荷を除いて収縮力を高める薬で明らかにメリットがある患者さんがいるのです。その強心薬を飲むと息が楽になるとか身体を動かすことが力強く滑らかになるとか患者さんが喜ぶ姿が多くなっています。このように新機序の発見からの新薬で社会への貢献を目指し、教室では現在、骨粗鬆症治療薬の分子基盤に関する研究や、ミトコンドリア病とその関連疾患(心臓や神経の病気)の新規治療薬に関する研究を進めています。

基礎薬理学から医療界にもアピール

私は親と周囲の方から医学部に行くようにといわれて入学したもので、使命感をもって入学したものではありません。薬理学に興味を持つようになったきっかけは、3年生の時に橋本虎六先生の講義を聞いたことで、質問しに行くうちに、そこがいい雰囲気だったため薬理学教室に入りびたりになりました。循環器系治療薬が勃興する時代に、世界的な教室で44年間ずっと活動してきました。
私には心臓や血管の働きについてよりよく見たい、今までわかっていないことを見てみたい、さらには操りたい、できれば薬でこじ開けたいという積極的な好奇心がありました。研究を進める過程で、薬の分子的な作用機序を明らかにして、それをもとに薬物治療を進歩させたいという使命感がここに育ってきたのです。研究とはやっている間に自ずとおもしろくなるものであり、研究成果はこう使えるのではないか、副作用を予防するにはどうしたらよいかと考え、臨床家にリスクを予言し強く訴えるようになりました。大いなるチャンスが得られる大学に身を置くことができ、薬理学を自分の活躍の場として先端的、根源的なところにまでしゃにむに突っかかっていけ、ひるがえって臨床家に薬のリスクをアピールし、医療事故を未然に防ぐことができたのは幸いだったと思います。

挑戦的な学生を育て、啓蒙的発信も

教授になり教育にも意を注ぎました。若者や学生が力強く素敵に伸びていってほしいと考えてきました。研究を工夫し精一杯やって、いい論文書くと世界中の人に受け止めてもらえるのです。サイエンスでは新しいもの、根源的なものを世界に提示できたのか、どんな仕事をしてきたのか、どんなアピールをしてきたのかが評価されます。オリジナルな論文ができると世界中に知己、友達ができるのです。せっかく東北大に入られたのですから、多彩なチャンスが山のようにあるところなのに、宝の山に入ってあれがダイヤモンド、これがサファイアということがわからないのはもったいない。ただ単に医師になるだけであれば必ずしも東北大に入る必要はないのではないかと考えます。研究者としてだけでなく指導的医師として今ある治療ガイドラインからさらに一歩踏み込んで患者さんにとって本当に何がいいのかを実践できる人を育てたいと考えてきました。
「教えて厳ならざるは、師怠るなり」ですので、伸びやかに医学を学んで生き生きと活用してほしいのであえて学生には厳しい試験も課してきましたし、学位審査は厳格だったと思います。学内や学会、医療界だけでなく、社会に対しても「薬理学者から市民への伝言」という形で、専門家の重要な任務である啓蒙活動も行うようになりました。それらはWebの東北大学機関リポジトリTOUR(http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/handle/10097/62970)でいつでも読めます。

最後に、医学を志す学生の皆さんにひとこと

「研究や勉強はやっている間におもしろくなってくるので、おもしろくなるまで精一杯やって、さらに頭がしびれるくらい考えてごらんよ、と。」

第89回日本薬理学会年会、横浜市にて、20160309.

[Interview,Text: 医科学専攻修士課程 坂井舞 2016.3]

柳澤輝行

分子薬理学分野教授

ページトップへ