基礎講座の百年

1915年の勅令第115号によって、解剖学3講座、病理学・病理解剖学部1講座、薬物学1講座、生理学2講座、医科学1講座及び細菌学1講座が設置されました。現在への伝統を受け継ぐ講座の先生がたに、講座の歴史とこれからの展望をうかがいました。

未知なる感染症に挑み,戦い続ける

押谷 仁|微生物学分野 教授

微生物学分野は細菌学教室の伝統を受け継ぎ、百周年を迎えた。感染症をコントロールすることを目指し、世界中を飛び回る押谷先生にお話を伺った。

「途上国で働く」という夢を叶えるために

「途上国で仕事がしたい、外国で仕事をしたい」という思いが強くて・・・。そのための手段として医者・医学の道を選び、医学部に入りました。しかし医学部で普通に学んでいるだけでは外国で働くようなチャンスはなく、入学後は漫然と過ごしていました。卒業する直前に進路を決めなければならない段階で,やっぱり途上国で仕事をしたいと真剣に考えはじめました。そこでいろいろな人に相談したのですが、その中で一番の大きな示唆をいただいたのが、石田名香雄先生*(第3代細菌学教室教授)です。当時、総長をされていてものすごく多忙だったと思うのですが、まだ学生だった私と会って話を聞いてくれました。その時に、ウイルスを専門にやっている国立仙台病院(現:仙台医療センター)ウイルスセンターの沼崎義夫先生を紹介してもらいました。そこに行けば道が開けると思って、5年ほど、小児科中心の研修をしてウイルスについての基礎を学びました。その後、沼崎先生がザンビアでのJICAの感染症プロジェクトに関わることとなり、私を指名して下さって、現地へ行きフィールドでの研究を始めました。

現場での感染症との戦い

ザンビアではウイルス学の知識だけではどうにもならないことに気づかされました。その時、石田先生が沼崎先生のところで働く以外に公衆衛生大学院で公衆衛生修士(MPH)*の学位を取得するという道を示して下さったことを思い出しました。当時はその理由がわからなかったのですが、現場に出てようやくその意図を理解し、その後MPHを取得するためにアメリカへ留学しました。
MPHの学位取得後、WHOの職員として37の国と地域を管轄し新興感染症対策のプロジェクトに当たるためフィリピンのマニラへ赴任しました。当初は私の他にスタッフ1名という小さなプロジェクトでしたが、着任4年目に状況が大きく変わります。2003年2月にSARSが大流行し、私はその収束に当たりました。2003年7月にWHOが封じ込めを宣言するまでに約8000人に感染し、800人近くが命を落としました。その結果、プロジェクトは30人を超えるスタッフと巨額の予算がつく大きなものとなっていました。

研究は現場から始まって現場に返していく

プロジェクトが大きくなるとマネジメントの仕事が多くなり現場から離れてしまうようになりました。それは違うな、と思い東北大学へ戻ってきました。
現在、研究室では海外での研究が主体で、フィリピンで大きなプロジェクトを二つ行っています。一つ目は感染症全体に関するもので、フィリピンで問題となっているような感染症を扱っています。具体的には狂犬病,デング,下痢症,呼吸器感染症などの研究を行っています。二つ目のプロジェクトは小児肺炎の研究です。発展途上国の小児の死因の一位は未だに肺炎でなかなか減らないんですね。フィリピンの人口16万人くらいの小さな島でそのプロジェクトを行っていて,ほぼ毎月,フィリピンのその島を訪れています。他にはモンゴルでインフルエンザの研究を行っています。このようにフィールドでの調査研究を主体に進めています。研究に対する基本的な考え方としてはいかに感染症をコントロールできるかということです。得られたデータをいかに現場に還元できるかを常に考えながらやっていきたいと思っています。

学生へのメッセージ

自分の人生は自分のものなので誰かに決められるような人生にはしたくないと考えていました。ただ、「このようになりたい」と思ってもすぐになれるわけではありません。私の場合は外国に行って仕事をしたいと思っていましたが、卒業してすぐにそのようなことができるわけではなく、10年とか15年とかかかるわけです。だから自分の将来を見据えてキャリアプランをどうやって作っていくかところが大事なんだと思います。学生の皆さんは長いスパンで自分のキャリアを考えていく必要があると思います。どのようにしたら自分がなりたい姿になれるのかを常に考えて欲しいですね。

注釈
*「人と研究:石田名香雄」のページを参照
http://www.med.tohoku.ac.jp/100th/people/people03.html
*公衆衛生修士(MPH): 保健医療の観点で社会課題にアプローチする学問、公衆衛生学を専門とする大学院を修了すると与えられる学位。

[ Interview,Text : 医科学専攻修士課程 坂井 舞 2016.11]

押谷 仁

微生物学分野教授

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